失言の法則

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■なまけもののおっちょこちょいのいくじなし

 作中で、ドラえもんがのび太の性質について熱弁するシーンがよくある。そこで、「パターンアイテム小辞典」【のび太】という項目を入れようと思ったのが全ての始まりだった。

 【のび太】
1)いくじなしの弱虫の泣き虫
2)いくじなしであまったれで気も頭も弱い
3)なまけもののおっちょこちょいのいくじなし
……

 ちょっと待て。いくらなんでも多すぎやしないか?。洗面器がすっぽり入るというネコ型ロボットのデカ口からは、それはそれは聞くに耐えない堪能な失言が、日夜繰り出されていたのであった。それらはとても「パターンアイテム小辞典」におさまるような代物ではないことに気付いたのである。

■失言を定義する

 発言者は悪気がないのについ中傷的な言葉を口走ってしまい、本人が「どういう意味だよ!?」と突っ込むシーンはどんな漫画にも存在するが、ドラえもんの10巻代以降ではこれがパターン化されており、その中でも特に類似性の高いものを「失言の法則」と呼ぶことにした。

 ストーリー転換にはあまり関与することのない純粋ネタである。そこは電話相談ネタに似ているが、こちらはせいぜい1コマで済むもので、1ページ丸々使ったりはしない。

 たかが1コマのネタであるが、言われた側の心は確実にズタズタだ。言葉の重みを感じる。尚、「逆・ないものねだり」も失言ネタの変種であると言える。

■失言履歴

 リストには「発言者」項目も付けようと思ったが、言うまでもなくほとんどあのネコ型ロボットなので省略。

 「いくじなしのおっちょこちょいのなまけものの弱虫の泣き虫の…」という、ネコ型ロボットの絶え間ない「の」の連続、それは「おいらの〜心の〜ハートの胸の〜」というジャイアンの歌詞にもまさる。

発見場所 失言 本人の反応 備考
TC3巻
「うそつ機」
「やめとけ。君に、人を騙せるわけがないよ。嘘をつくには、ある程度頭が良くなくちゃ。そこへいくと、君は…」 「どういう意味?」  未来の世界へ帰れ。
TC3巻
「そっくりクレヨン」
「下手なもんか。こんなに上手く、を描いてあるのに。えっ、犬なの。下手だなあ 「ああん。ドラえもんもばかにした」  おそらく最初の画力コンプレックスネタ。
TC5巻
「のろのろ、じたばた」
「のんびりしすぎてるんだよ。はっきりいえば、のろまだ!ぐずだ!」 「ムウ」  説教から、ただの悪口へ。
TC5巻
「鏡の中ののび太」
「ぼく、こんなへんな顔してたかな」 「のび太だよう」  鏡の中に閉じ込められていたのび太を見て、一番最初に放った言葉。
TC5巻
「つづきスプレー」
「ほう、戦艦大和か。かっこよく、海上を進んでる絵が、描きたかったって。なるほど、無理だ。ガハハ 「キッ」  この後「自分が言ったくせに」と言い逃れをする指導員。スタンダードな画力コンプレックスネタ。
TC5巻
「うつつまくら」
「たいへん!急がないと遅刻するわ。あら、のび太さんが学校へ行く時間なら、きっと遅いんだと思ってたわ」 時計を指差す  この話全部がのび太の夢―つまり夢オチだが、作品中世界派的に考えれば、彼は夢に見るほど周囲の毒舌に傷つけられていたということだ。
「でも、間違っていたら、何にもなりませんよ。あ…いやみんな大変よくできています。君、(頭が)おかしくなったんじゃないだろうね 「ムガー」  やはり「頭が」の部分が自主規制されてしまった。こんな教師は解雇してしまえ。
TC8巻
「ロボットがほめれば…」
「これ、幼ちえんのころかいたの? 「きのう、かいたんですよ」  大変な権威のある美術評論家にまでそう言われてしまったのだから仕方あるまい。
「絵を見て感想を述べてくれですって?よしましょう!嘘はつきたくないし、本当の事を言えばあんたが傷つくし 傷ついた顔  この言葉が相当意志薄弱児の心を傷つけているのには違いない。
TC11巻
「あらかじめアンテナ」
「あきれたねえ、ほんとにもう……。なにか落ちてきたら、よけるなりうけるなりするのがふつうだろ。あたってからじゃおそいんだ。なんでも先へ先へと考えなくちゃ。ころぶ前におきるとか、落とす前に拾うとか、きみはいつもおくれるんだ。のろいんだよ」 「だまってきいてれば、ずいぶんいいたいこというなあ」  指導員の御託を聞いているうちに、顔の怪我も治ってしまったようだ。
TC12巻
「正義の味方セルフ仮面」
「よくあんなものに夢中になれるな。いいとしして、単純というか何というか…。ある意味では幸せな人だ」 TVに夢中  本人に聞こえていない例。冷たすぎる。
TC13巻
「ジャイアンシチュー」
「どんなまずい料理でも?」
「そう!たとえばママの料理でも
「なんですって」  ネコ型ロボットは居候の立場だろう。この家の食事が嫌なら出て行け。この手のネタが好きな人は曲解派へ。
TC13巻
「ロケット操縦訓練機」
「宇宙探検なんて、君みたいななまけものおっちょこちょいいくじなしにはとても無理なんだよ」 いじけモード  宇宙探検の過酷さを伝えんとばかりに、3つの中傷的発言が出た。
TC15巻
「ナイヘヤドア」
いくじなしあまったれ気も頭も弱い君が、よくそこまで決心した!」 気難しい顔  ここに失言を挿入することによって、冒頭の決心が「決心ネタ」にならずにすんだ。ストーリー発展に少しだけ関与。
TC16巻
「びっくり箱ステッキ」
「あんなものを怖がるのは、君ぐらいのもんだよ」 いじけモード  87ページ7コマ目に異様に冷たい空気が漂ってるのは、当時の画風のせいですから。指導員が薄弱児に愛想を尽かしたわけではありませんから。
TC17巻
「空で遊んじゃ危ないよ」
「危ないスポーツだし、君は運動神経ゼロだし」 「それでも友達か?」  友達ではないですね。
TC17巻
「あべこべ惑星」
あほらしいというか、いじらしいというか…。よしよし、お星さまはきっと聞いてくださるよ」 「わかってくれるのはドラえもんだけだ」  本人が失言に気付いていない例。
TC20巻
「雪山のロマンス」
「あんないい子がなんだってよりによってのび太くんなんかと。もう少しましな男がいっぱいいるのに…」 「いいすぎだ!!」  だったら君はどうしてのび太君の所へ来たんだい?。セワシが彼の本音を聞いていなくて本当に良かった。
TC22巻
「ジャイ子の恋人=のび太」
「君が女の子につけ回されるなんて…、天地がひっくり返ってもありっこない 傷ついた顔  「天地がひっくり返っても」という表現は、オバQの頃から使われていた。
TC22巻
「ラジコンシミュレーターでぶっとばせ」
「あぶないんだ。きみみたいににぶい男は、きっと大けがをする。だから貸さない」 「これだけ見せつけといて、そんなのあるか!?」  この後、ネズミ登場→入力システム強制排除→出力システム暴走→「だから言ったのに!!」系のオチへ
TC22巻
「のら犬『イチ』の国」
「あの顔を見ろ!きみよりりこうそうだよ」 不満そうな顔  動物と比較対照されることが多い意志薄弱児である。
TC23
「本人ビデオ」
「先生にほめられたって?アハハ、うそだ。」 「ほんとだぞ!」  周りにこんなことを言われていれば、誰だって意志が喪失するよ。
TC24巻
「ガンファイターのび太」
「実に不思議だ!他に何のとりえもない頭も悪い運動もだめのろまぐずで…」 「もういいよ」  射撃とあやとりに毒舌は付き物。
TC25巻
「な、なんと!!のび太が百点とった!!」
「ああ、ついにカンニングしたか 「どうして…、どうして…。あんまりだあんまりだ。」  百点を取ったばかりに、これらを含めて計6回の中傷的発言に遭った。
もののはずみということもある。のび太君が偶然百点を取ることだって、あり得ないことではないのだ」 「いいんだよ。僕なんかが百点取るのが間違いなんだ。昼寝して0点取ってりゃあいいんだよ!」
TC25巻
「カンヅメカンでまんがを」
「漫画家じゃないんだから、下手なら下手なりに、一生懸命書いた作品なら…。それにしても、これは下手くそすぎるなあ」 「わあ、はっきり言ってくれちゃって」  日本一の努力否定マンガ。
TC27巻
「○□恐怖症」
「よってたかって、いくじなし弱虫泣き虫ののび太をいじめるとは!!」 「ちょっと言い過ぎじゃないの」  「いくじなし」という認識が強いらしい。
TC27巻
「かがみのない世界」
「人間の値打ちは顔じゃない。頭だ!力だ! うつむく  何故「心だ!」と言ってやれない?
TC28巻
「なぜか劇がメチャクチャに」
のび太が分かれば誰にも分かる 気難しい顔  劇がメチャクチャになった原因がここに。
TC30巻
「ねむりの天才のび太」
「そりゃ、のび太の頭はもともと空っぽだもの」 激怒し言い争う  どんなスキも逃さずに失言。
TC30巻
「ハツメイカーで大発明」
「君って奴は……。そんな道具より、いじめられないようにしっかりしろよ。でないと、いつまで経ってもいくじなしで、のろまで、みんなに馬鹿にされて……」 「ムカ そんなに悪くいわなくても」  オイオイ本当に未来の世界に帰っちゃったよ。
TC32巻
「野比家が無重力」
 セリフではなく絵解きによる失言。少年の夢が台無しになった。
TC33巻
「SLえんとつ」
「いかにも男性的で逞しくて、力強くてダイナミックで、エネルギッシュでスピード感にあふれていて、まるっきり君と正反対だもんね」 「ウ…、ク、ク、ク…」  男性的で/逞しくて/力強くて/ダイナミックで/エネルギッシュで/スピード感にあふれていて…6つの形容詞を裏返したものが結論だったら、そりゃ胸にナイフだわな。
TC36巻
「いたずらオモチャ化機」
「のび太一人をよってたかって笑い者にするなんて許せない!!しかもこんなよわい者を、あわれな者を、おろかな者を…」 「それは言い過ぎじゃないか」  この熱弁ぶり。最初読んだとき素直に笑ってしまった。
TC43巻
「へたうまスプレー」
「そんな絵を学校にもってったら、みんなに笑われる」
「まさかそんなこと……。…………そんなこと、あるかもなあ幼稚園児みたい
「どーせぼくは幼稚園児だよっ!」  結局、意志薄弱児の絵=幼稚園児なみという観念からは逃れられず、オチへ。
TC45巻
「トロリン」
「青いというよりうすぎたない。けさも顔を洗わなかったな」 怒り泣き  カウンセリング能力まるでなし。
大長編
「夢幻三剣士」
「夢の中では、現実世界でだめな人ほど立派になれるんです。あなた、きっと、英雄になれますわよ」 「………………。かわいい顔してはっきりいうなあ」  「現実世界だと○○だから、架空世界では○○」という逆説的失言が多い。
大長編
「銀河超特急」
「のび太は射撃の天才なんです。そのほかはなんにもできないけど」 不愉快そうな顔  本当にいつもいつもそればっかりだな。
FF1巻
「未来から来たドラえもん」
「どうしたの、のび太ちゃん。うなったりして」 「いやだなあ、歌の練習してたのに……」  連載第1回目からこれですか。
FF4巻
「いたわりロボット」
「いくらなんでもこの世で最低ってことはないでしょ。下には下があって…」 「それで慰めてるつもりかよっ」  この話、精神的に残酷すぎるためてんコミ未収録。
FF10巻
「空想レンズ」
「きみの望遠鏡をかしな。あの安物のぼろっちいやつ 不愉快そうな顔  望遠鏡1本請求するのにもこの失言。奴の口の悪さは、完全に作者の意図を超えて一人歩きしている。ここに失言ネタを挿入する必要性は全くないし…。
CS1巻
「あべこべ世界ミラー」
「日本一強いと思うよ。本物が日本一弱いから とても不愉快そうな顔  何のデータを根拠に「日本一」と言っているんだ?

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。
 ※単なる悪口は含まない。(このマンガ、悪口が多いから…)

■失言の分類

『射撃・あやとり系』
 …これだけは○○だけど、他は××だ
『画力コンプレックス系』
 …まさか××なことはない、と思ったら本当に××だった
『パラレルワールド系』
 …現実世界だと××だから、架空世界では○○だろう
『成績系』
 …実際は○○だが、普段××だから今回も××に違いない

■考察

 「失言の法則」は、ドラえもんの性格・描写ともに際だってクール×ヴァイオレンスだったてんコミ10巻代に完成されたパターンと見ている。初期作品のヴァイオレンス要素にクール要素が加わったのがこの時代。「いたわりロボット」もてんコミに収録されたとしたら10巻代である。

 「ほのぼの漫画」と思われがちになってきた20巻代、30巻代に至っても失言が多く分布しているのだから、出会えた時にはかなり笑える。


〜「失言の法則」観測にご協力いただいた方々〜

春井風伝氏・才野茂氏・ウミ氏・スクーバー氏・KKK氏・儀丸氏・黄 牛捨氏・Bokudora

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