不理解の法則

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■「のび太にものを分からせるのは、大変なんだから」

 これはとある大長編にて、意志薄弱児指導員がこぼした言葉である。この言葉からも、彼の仕事の大変さがよく窺える。しかし意志薄弱児を見放してしまったら、指導員として失格だ。そんないち意志薄弱児指導員の悪戦苦闘の日々を、下の履歴に綴る。

■不理解履歴

※「指導員の解説」は、ドラえもんだけとは限らない。

発見場所 指導員の解説 意志薄弱児の反応 備考
TC17巻
「あちこちひっこそう」
 ミニハウスには、瞬間移動装置がついていて、ボタンをおすだけで家ごとひっこしできる。    水道、ガス、電気はどうなるのかについての言及はない。だいぶ端折った解説だが、薄弱児は「瞬間移動」の時点でもうアウト。「ワープ」も知らないんだから当然だ。
TC20巻
「へやいっぱいの大ドラ焼き」
 新種の細菌をつくるにはいまある菌の染色体の中のDNAを改造し、その遺伝情報を………。  むずかしい話はいいからやってみせてよ  理論より実践。
TC21巻
「だいこんダンスパーティー」
 細胞の中にふくまれている遺伝情報に手を加えるんだよ。遺伝情報と言うのは、生物を作る設計図みたいなもんだ。これのおかげでバラの木にはバラの花が咲き、カボチャのつるにはカボチャがなる。  (頭を抱えている)  遺伝の話に限って、秘密道具の解説が急にもっともらしくなる。
TC22巻
「のら犬『イチ』の国」
 まずメインスイッチを入れてだな。培養機のコックを開き、タンパク抽出ドラムを始動。そして……。 (目を十字にしている)  直接解説しているわけではないが、不理解反応がしっかりと発生している。
TC23巻
「長い長いお正月」
 人の3倍の早さでなんでもできる。だから、1日が3日分の長さに使えるんだ。  ?  説明不足。
TC25巻
「竜宮城の八日間」
 物体の運動が光の速さに近づくほど、時間の経ち方は遅くなるんだ。相対性理論ていうんだ。  ?  一桁の足し算しかできない人に、「相対性理論」が理解できるはずがない。
TC26巻
「ビョードー爆弾」
 まわりのみんなを、誰かに合わせる爆弾。  ?  説明不足。
TC27巻
「ジャイアン良い子だねんねしな」
 動物でも植物でも小さな細胞が集まってからだをつくってるんだ。その細胞のくみたて方の設計図を遺伝情報というんだよ。遺伝情報は、あらゆる細胞の1つ1つにくみこまれている。だから、たとえばかみの毛1本でもあれば、それをもとにコピーが作れるんだ。分かった?  ぜんぜん  指導員必死の指導も虚しく、最後の「分かった?」の一言にだけ笑顔で「ぜんぜん」と反応する意志薄弱児。
TC28巻
「しずちゃんの心の秘密」
 体中の細胞には、どの一個をとっても、それぞれにその人だけの遺伝情報が含まれている。それはその人の顔形だけでなく、性質や考え方などの基本になるものだ。  説明はいい  ほら、また遺伝関係のネタ…。
TC30巻
「フエール銀行」
 一時間ごとに一割の利子がつくんだよ。 と、いうと?……。  「円ピツ」といい「たぬきさいふ」といい、金銭がらみの道具には必ず説明不足、理解不足がつきまとう。
TC30巻
「クロマキーでノビちゃんマン」
 テレビじゃ簡単なんだよ。クロマキーと言ってね、青いバックの前で別の景色と合わせて……。 (無表情)  不理解反応が出る前に、すかさず「わかんない?じゃ、実物を出して説明しよう」とフォロー。
TC30巻
「お子さまハンググライダー」
 これこそは二十二世紀の航空力学による、最小の翼面積で最大の浮力をえるという…………、こんなこといっても分からないか。 (うずまきが出ている)
TC32巻
「超リアル・ジオラマ作戦」
 だから、シボリをできるだけしぼりこむ。そのためにはライトを強く、スローシャッターで…。  (星3つにうずまきと、舌まで出ている)  サブカルチャー博士のスネ吉先生による解説(盗聴)。
TC34巻
「見たままベレーで天才画家」
 かぶった人のみた色や形を、ベレーがキャッチし、それをうけたえんぴつが、腕や指の筋肉に命令をくだして…。  (頭から星3つとうずまきが出ている)  こんな道具にそんな大それた解説いらんだろう。
TC34巻
「タネ無しマジック」
 ぬい目のとこに超小型コンピューターがはいってて、元素を分解したり組みたてたり、いろんなものを作りだす。  ? ? ?  そこまで科学的根拠を必要とする漫画だとは思えないのだが。
TC37巻
「感覚モニター」
 きみがきいたり、さわったりあじわったりすると、その感覚がこのアンテナからこのモニターにおくられ…、ぼくがみたりきいたり、あじわったりしたのと同じように感じられるんだよ。  ?
TC39巻
「メモリーディスク」
 脳に蓄えられてる記憶を取り出すの。  ?  説明不足。
TC39巻
「具象化鏡」
 言葉の上の表現をほんとに見えるようにするのが「具象化鏡」。  ? ? ? 何だかよく分からない  現実的過ぎて理論が理解できない場合と、非現実的過ぎてしっくりこない場合の2種類がある。これは当然後者。
TC39巻
「虹のビオレッタ」
 このキャンディーを食べた人はこっちの注文通りのコマーシャルメッセージをしゃべる。
 そのコマーシャルを聞いた人は、すぐに影響を受けて…。
 ?
 ? どうもよく分からない
TC40巻
「恐怖のたたりチンキ」
 酷い目に遭わされた者に変わって、抗議する薬なんだ。  ふうん?…
TC40巻
「モーテン星」
 目で物を見ることが出来るのは、瞳から入った光が網膜で像を結び…、それを視神経が感じ取るからだ。ところが!網膜の一部に像を写さない場所があって、これを盲点と…。  ? ? ?  この後の解説で、読者も「盲点」を実験できるようになっている。そして一般層は『ドラえもん=科学漫画』だと騙されてゆくのである…。
TC41巻
「野比家は30階」
 家が地面を離れても、電気やガス、水道、下水道等、使えるように亜空間で繋いどくの。  ……?なるほど  彼も大人になったのか、分かりもしないのに分かったフリをするようになった。
TC43巻
「まわりのお天気集めよう」
 その雨?「気候集中装置」を使って、降ってる雨を纏めたの。  キコーシューチューソーチ?  本来漢字表記されるべき名詞が片仮名で表記された場合、発言者がその名詞を理解していないことを意味する。
TC43巻
「仙人らくらくコース」
 仙人みたいなこといってる。  センニン?なんだい、それ  上に同じく、「片仮名表記の法則」。
TC43巻
「合成鉱山の素」
 ありとあらゆる種類の元素の混合液なんだ。だから、なんでも合成してくれる。  ゲンソってなんだ?  上に同じく(略)
 酸素とか、水素とか、炭素、チッ素、塩素、金、銀、鉄、銅、鉛、ナトリウム、マグネシウム………………ぜんぶで百三種。宇宙はすべて、これらの元素の組みあわせでできてるんだ。  (左目がうずまきに、口が”3”になっている)  43巻といえば不理解と骨川家破壊ばかりが頭に残る。
TC43巻
「食べて歌ってバイオ花見」
 植物でも、動物でも、その細胞のひとつひとつが遺伝情報つまり設計図を持っていて、これを読みとれば、そっくりなクローンを作ることが…。  ? ? ?  「あ、ごめん。君には難しかったかな」と、ここまでくると指導員もかなり確信的である。
TC43巻
「ジャックとベティーとジャニー」
 動物の形をした物にその音波をあびせると、分子配列をかえて一時的な疑似生命現象を…。  ?  だからこんな話で科学的根拠なんか開示しなくてもいいって。
大長編
「宇宙開拓史」
 星と星の間って、何光年も何十万光年も離れているわけ。だから、たとえ宇宙船が光の速さで飛んでも何年も何十万年もかかるわけ。この船は重力コントロールで飛ぶんだけど、それだけじゃ間に合わないから…、ワープを繰り返して、空間をすっ飛ばして進むわけ。  ちっとも分かりやすくない!!  児童向け漫画でSFやるからには、こういった解説も必要なので挿入したのだろう。
大長編
「アニマル惑星」
 「二足歩行」と「ものをつかめる手」、このふたつの技能こそ人間がほかの動物からかけはなれて、進化するための大きな要素となったのだ!!  ?………
 ?………
 ?………
 それがどーした
 この後、指導員が「のび太の脳みそは進化が遅れているらしい」などという差別的発言を。
 両手が自由に使えるおかげで人間は道具を使えるようになった!道具をつくりだすことでますます知能が発達し、ついにあらゆる動物を征服したのだ!!ゆうべの動物たちは人間と同じ道をたどってる。とても自然の進化とは考えられない!生物学的にありえないことだ!!  ファア〜ア……むずかしい話は苦手なんだ
大長編
「ブリキの迷宮」
 これはロボットたちの……、コンピューターをくるわせるプログラムでしかも伝染性をもつ。その効力は感染後数時間で発し……。  さっぱりわからない。なんのこと?
大長編
「夢幻三剣士」
 このカセットはこれまでの夢とちがって第2の現実を創造する、画期的新製品であります。実感を盛り上げるため、さまざまな新機能を……。  チンプンカンプンだい
大長編
「創世日記」
 どんな生物の細胞にもDNAとかいうものがあって、それはいわば生物の体をつくる設計図で先祖から子孫へうけつがれる遺伝情報だから。  ま、むずかしいことはわかんないけど  役割分担のため、指導員が不在。意志薄弱児が一人で解説して一人で不理解をしているシーン。人員が足りなくても、パターンはしっかりと発生する。
大長編
「銀河超特急」
 原子がギッチリ集まって星を作りました。星がザクザク集まって銀河を作りました。銀河がドッサリ集まって銀河団を作りました。無数の銀河団が大宇宙のすみずみにまでちらばっています。そして、その宇宙がビッグバン以来果てしなくふくらみつづけているのです。  何の話?難しくてさっぱりわかんない  どうでもいいとこだけど、いいかげん手が疲れてきた。
大長編
「ねじ巻き都市冒険記」
 この星の植物には意思があるんだ。そのパワーを増幅させてちょっと警告したんだ。 (頭から星とうずまきが出ている)  種をまくものによる解説。
FF30巻
「ゴキブリカバー」
 タイムマシンで三億年以上前の石炭紀へ送りこんだ。ひょっとして、あれがゴキブリの先祖になったのかもしれない。 ? ? ?  オチに不理解が入るのは珍しい。何十億もの栗まんじゅうは宇宙のかなたへ、何十万匹のゴキブリは太古の昔へ送り込んで問題解決。無責任な未来人である。
CS4巻
「イメージベレーぼう」
 かぶって物の形を考えると、その考えが固まるんだ。  低学年向けなので、細胞や分子配列などの話にまでは発展しない。
ぼくドラ19巻
「ユメ完結チップ」
 ユメが中断すると、チップのコンピュータが自動的にはたらいて、ユメの続きをシミュレートし、それを起きてるときに実現させるんだよ。 ? ? ?  この道具の存在意義自体がよく分からない。未収録なのも無理はない。

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。

■科学漫画としての発展

 このネタは珍しく20巻以前には皆無であり、40巻代に集中分布している。「ドラえもん」というマンガがが「ドタバタギャグ」から「科学漫画」として世に再デビュー果たした大きな証拠となるだろう。ドタバタ重視の初期の作品ではまず発見できない、後期限定パターンである。

 パターン観測の視点に於いては「ドラえもん」は科学漫画でも教訓漫画でもなく只の「パターンマンガ」である。これら”科学的・合理的な理屈”はストーリーとは殆ど関係ない。

■教育者ドラえもん(作品中世界派的考察)

 彼は自然界の科学や秘密道具の構造についての知識はそれなりに極めている。ロボット学校卒業時に、教員試験みたいなものを免除されてきたのだろう。しかし、自分の知識をそのまま無学者に伝授するのは至難の業だ。そこでドラえもんは、のび助という実に手頃な実験台を発見した

 教育は「知識による理解」よりも「経験による理解」が大切だと叫ばれている今日この頃である。詰め込み知識で分かったふりをさせるより、(主にのび助を使用して)実際にその状態を見せることで、意志薄弱児に様々なことを少しずつ物事を教えているのだ。その点は評価できると思う(?)。


〜「不理解の法則」観測にご協力いただいた方々〜

KKK氏・黄 牛捨氏・タカマサ氏・春井風伝氏・YM氏・影月氏・スクーバー氏・ティ濾器氏・北条陸実

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