のび助の法則

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■何の前触れもなくオチに登場する男

 のび太のパパ「のび助」という人物は、オチに使われる、ただそれだけのキャラクターである。詳しくは父親実験シーンの頁で述べた。彼が「出力システム」の役割を担わずに出演が許可される機会など、作者の気の向かない限りあり得ないということだ。

 彼のように本格派の出力システムとなると、もうストーリー展開中には一切姿を見せなかったりする。オチ直前になった時に「さぁて、そろそろ…」というような感じでヒョコっと顔を出し、忽ちあのワイドなコマで爆笑のトリを飾ってくれる。ううむ大物だなあと感心してしまう。オチ職人の業を感じる。自分がどこで何を必要とされているのか、ちゃんと分かっているのだ。自分はストーリーと何の関わりも持っていないのに、自分には何の落ち度もないのに、身をオチに売り飛ばしてやるのだから…。

 作者の視点から見れば非常に便利なキャラクターである。作者がオチが思いつかないときに、このオチ職人をポイと挿入すれば、自動的にオチを形成してくれるのだから。

 読者もオチ職人が作ってくれた数々の笑いに感謝しなければならない。作中では一見軽視されているように見えるが、実は「縁の下の力持ち」とは、野比家の大黒柱・のび助のことを指すのである。

■パパオチ履歴

発見場所 パパ出現理由 内容 哀愁
TC5巻
「ひらりマント」
帰宅  玄関に放置されていたひらりマントが風に靡いて、どうしても家に入れないよう。  仕事を終え、せっかく帰ってきたというのに、「どしん」「ごちん」と連続して自分の家の壁に激突。
 パパには、帰れる家がないんだ。
TC5巻
「黒帯のび太」
着替え  部屋に放置されていたブラックベルトを浴衣の帯と間違え、装着。しかも変な結び方したから取ることができず、危険人物とみなされ家族と離れて生活するはめになる。  家庭内単身赴任状態。息子に「よりつかないほうがいい」と言われ、木箱で食事をとる姿が涙を誘う。
 実は「変な結び方」をしたのは玉子のほうである。パパには何の落ち度もないのに…。
TC7巻
「ネズミと爆弾」
帰宅  鼠への恐怖心ゆえに発狂したドラえもんを宥め、地球破壊の危機を救った矢先に「ねずみが」と口走ってしまい、のび太と玉子に叱られる。  疲れて帰ってきて、妻と息子に怒鳴られたらたまったもんじゃないよ。
TC8巻
「透明人間目薬」
着替え  部屋に放置されていた透明人間目薬を使用。透明人間になる。  そんな目薬などささなくても、貴方は十分透明な人間です。
TC8巻
「オトコンナを飲めば?」
 男女の中身が入れ替わる話のトリに選ばれる。  父親の変わり果てた姿を見て、遂にのび太は「元に戻そうよ」。
TC11巻
「催眠グラス」
帰宅途中  道端に放置されていた縞模様のあやしい眼鏡を着用。その自分の姿を鏡で知り、「まるでフクロウだ」と呟く。以来、フクロウとして生きる。  窓の中には、父親の帰りを待つ家族達のシルエット。窓の外には、変わり果てた父親の鳴き声が夜の練馬に響き渡る。
TC14巻
「ラジコン大海戦」
 ???  大海戦が終わった所で、ストーリーも落としておけば良かったのに。作者はどうしてもパパオチに引っ張りたかったようだ。
TC16巻
「時間貯金箱」
帰宅  時間の変化に惑わされ、もう一度会社に行くはめに。  せっかく帰ってきたのに…。
TC17巻
「紙工作が大暴れ」
帰宅途中  煙草のポイ捨てにより紙製の恐竜を焼き払い、子供達の危機を救う。  震え上がるパパよ、ヘビースモーカーの貴方だからこそ子供達を救えたのだ。
TC18巻
「大氷山の小さな家」
湯上がり  廊下に放置されていたどこでもドアを開いてしまい、全裸で南極に放り出される。  せっかく湯船で温まったのに…。
TC18巻
「ホームメイロ」
帰宅  部屋に放置されていたホームメイロを弄くり回し、野比家究極の危機を救う。  好奇心旺盛な貴方だからこそ家族を救えたのだ。
TC37巻
「おみやげふろしき」
帰宅途中  道端に放置されていたおみやげふろしきを持ち帰り、息子に喜ばれる。  拾い癖のある貴方だからこそ(略)。
FF34巻
「みせかけモテモテバッジで大騒ぎ」
帰宅途中  道端に放置されていたハート型のあやしいバッジを拾って着用し、大変なことが起き始める。  コロコロコミックに再録された時も、スネカミコーナーにてパパは変態であると読者に突っ込まれていた。
ぼくドラ17巻
「なんでもたまごに」
帰宅  居間に放置されていた何でも卵にする機械を「なんだ、これは」覗き込み、自身が卵になってしまう。  初出が「幼稚園」とはいえ、何てナンセンスな道具なんだ。それみろパパがオチに使われてしまったぞ。幼稚園児にまで亭主廃棄論を植え付ける気か。「ぴーよぴよぴよ」というパパの決めセリフ&ポーズも空しく、ドラは白け顔。

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。

■結論

パパオチが発生する確率は、ストーリーのスケールの大きさに比例する

 ストーリーが壮大になればなる程、落としにくくなるのも当然だ。その時、のび助というオチの救世主が登場する。

出力システムには、拾い癖がある

 入力システムが回収せずに放っておいた物、中間出力システムがどこかに放置した物、排除システムが窓から捨てた物等を、縁の下の出力システムがしっかりと拾い集め、オチへと繋げている。拾い癖なしに出力という仕事は務まらないのだ。

■最初から最後までオチ尽くしの作品

 最初からのび助が登場する作品もあるが、それ乃ち最初から最後までパパオチの話である。

<最初からパパが登場す話の主な例>
てんコミ4巻 ソノウソホント
てんコミ9巻 人間あやつり機
てんコミ11巻 あらかじめアンテナ
てんコミ12巻 わすれ鳥
てんコミ17巻 ムリヤリトレパン
てんコミ19巻 おかしなおかしなかさ

 「わすれ鳥」なんかはまさにオチ×オチ×オチ……という感じの最高傑作。

■能動的出力と受動的出力

 同じ出力システムでも、キャラクターによって決定的な違いが見られる。例えばジャイアン等は自分で秘密道具を奪取し、自分で秘密道具を乱用し、自分から勝手にオチへと飛び込んで行く、”能動的”な出力システムである。それに対してのび助は、偶々そこに秘密道具が放置してあったが為にオチに巻き込まれてしまった――という極めて”受動的”な性質を持つ出力システムと言えるだろう。

 能動的出力と受動的出力、果たしてどちらの出力のほうが失笑を誘うのかは、ここに書くまでもないだろう。


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