坪庭
東京都八王子市K町
線路×河川×生活道路という、てんでバラバラの方向性を持つ3つの線の隙間に生まれた小島。せっかく余った土地なのだからとプレハブ小屋の町会館を置いてみたが、それだけでは余白を完全に埋めきることができず、色々な物を挿し込んだ結果、ささやかなポケット・パークとなった。「和田団地」に必要とされる色々な機能を、1つの残余地に集約したわけである。この一角だけで「和田団地」の全てが説明できてしまう。そのバラエティさに小宇宙のようなものまで感じてしまうのは大袈裟過ぎるだろうか?
人だけでなく動物にもオープンスペース機能を提供しているようで、この小島の上で昼寝している猫を幾度か見かけた。猫尺度には丁度いい狭さだ。京都の町屋造りの家屋にある狭い庭は「坪庭」と呼ばれるが(路上観察学会,1988)、当物件も住宅団地内の坪庭と呼べる。
さて、当物件の左側の特徴ばかりをざっと述べてきたが、河川と接する右側は一体どうなっているのか。こちらは線路で遮断されているのにもかかわらず、几帳面に河川歩道として整備されており、超芸術トマソン的な景観を醸し出している。川沿いをランニングしてる人は、わざわざこの中まで走ってきてUターンするのだろう。川沿いに犬の散歩してる人は、わざわざこの中まで犬を連れてきてUターンするのだろう。税金を使ってまでも余白を埋める努力を怠らない、空白恐怖症の街で育った東京人はみな超・芸術家なる素質を持っている。東京人の誇るべき財産である。我々は財産を間違った方向に支払っているのではないかと気になることもあるが、気にするまい。