キャラとストーリーの法則
ここでは「ドラえもん」におけるキャラクターの配置とストーリーの構成から、この漫画がパターンマンガであるゆえんを探ろうと思う。
■レギュラー5人
何の変哲もない日常生活の中に、異世界の住人が一体だけ紛れ込み、そこで発生する軋轢やカルチャー・ショックを面白可笑しく描く。これが、昭和39年(1964)発表の「オバケのQ太郎」以来確立した、藤子・F・不二雄という漫画家が最も得意とする「日常SFギャグ」というジャンルである。本人いわく、「SF」とは「サイエンス・フィクション」ではなく「すこし・ふしぎな物語」なのである。
さえない主人公の少年と、その少年が憧れているクラスメイトの少女と、嫌味な金持ち少年と、いじめっ子のガキ大将のいる、ごく平凡な昭和40〜50年代の郊外住宅地の風景。その中に「すこし・ふしぎ」な異分子が挿入されることで、日常SFギャグは始まる。
もうお察しかと思われるが、F先生の描く日常SFギャグは、登場人物の数と役柄がパターン化されている。表でまとめると、以下のようになる。
主人公A (人間) |
主人公B (異分子) |
紅一点 (緑一点) |
ゴマスリ | 金持ち | ガキ大将 | |
ドラえもん | のび太 | ドラえもん | しずか | スネ夫 | ジャイアン | |
キテレツ大百科 | キテレツ | コロ助 | みよ子 | トンガリ | ブタゴリラ | |
オバケのQ太郎 | 正太 | Q太郎 | よし子 | 木佐 | ゴジラ | |
パーマン | みつ夫(パーマン) | みち子 | さぶ | 三重晴三 | かば夫 | |
ウメ星デンカ | 太郎 | デンカ | みよ子 | サンカク | ふぐ田 | |
ポコニャン | 太郎 | ポコニャン | みき | ラッキョ | ヒヒ山 | |
チンプイ | エリ | チンプイ | 内木 | コン三郎 | スネ美 | 大江山 |
バケルくん | カワル(バケル) | ユミ | ゴン太 | |||
みきおとミキオ | みきお ミキオ |
ゆり子 マリ子 |
ラッキョ トンキョ |
フグラ ブクラ |
||
宙ポコ | つとむ | 宙ポコ | ||||
宙犬トッピ | コー作 | トッピ | みどり | ネズミ | カバ口 | |
バウバウ大臣 | 大二 | バウバウ | ウララ | カバ口 | ||
ドビンソン漂流記 | マサル | ドビンソン | まみ | ブタオコゼ | ||
モッコロくん | ゆう | モッコロ | げんごろう | |||
4じげんぼうピーポコ | たけし | ピーポコ | ようこ | デカ夫 | ||
Uボー | すすむ | Uボー | まり | ごんた | ||
ドラミちゃん | のび太郎 | ドラミ | みよ | ズル木 | カバ田 |
調子に乗って読んだこともないマイナー作品までリストアップしたため空白だらけになってしまったが、それはいいとして(空白を全て埋めることができるぞという熱心なFファンの方、いたらぜひ教えて下さい)、基本的に主人公は2人組みのコンビで、レギュラーキャラは5人であるということが分かるだろう。
さて、ここまでは目に見えることだが、今度は目に見えない、形而上でのキャラクター分類をしてみよう。
■演出システムによる登場人物の分類
日常SFギャグマンガは、「異分子」を中心にストーリーが展開する。「ドラえもん」においては、「秘密道具」がそれにあたる。最初の頃はドラえもんそのものが異分子であり、彼が日常世界で引き起こすドタバタに重点が置かれていたが、中期から後期になるにつれてその色合いはしだいに薄れ、代わりに「日常世界での秘密道具の使われ方」が話のテーマになっていった。
よって、「ドラえもん」の作品分析をする際には、秘密道具の流れに注目するとよい。
日常世界(20世紀)に挿入された異世界(22世紀)の秘密道具が、どのように人手を渡って、どのように流出し、オチへ繋がってゆくのか? |
これを辿れば、登場人物の役割というのも自ずと見えてくる。"秘密道具を挿入させる人物"、"秘密道具を流出させる人物"、"秘密道具を廃棄する人物"という風に、登場人物の行動は全て、秘密道具によって制約されているのだ。これを「演出システム」と呼ぶことにしよう。
システム | 役割 | 主な該当キャラクター |
入力 | 日常世界に秘密道具を出現させる。 | ドラえもん ドラミ のび太(スペアポケット使用) |
中間出力 | 秘密道具を日常世界で使用して話を発展させ、話の流れをオチに運んで行く。 | のび太 スネ夫 |
出力 | 秘密道具の餌食になる。オチに使われるだけで、それ以上話の中で発展・活躍しない。 | ジャイアン のび太 のび太のパパ スネ夫+スネ夫のママ(コンビ) |
排除 | 秘密道具を一切使わず捨てるだけの、障害物的な役割。ストーリーの転換に使われる。 | のび太のママ |
それぞれのキャラの演出システムは絶対的なものではなく、話によって変わるが、ある程度は固定されている。例えばのび太のママ(以下、玉子)やパパ(以下、のび助)が自分でスペアポケットを使って、入力システムになるなんてことはありえない。
このキャラクター分類を基に、秘密道具流出パターン図を作ってみた。
■■■ドラえもん | |||||||||||||||||||
捨てる ↓ |
プレゼント ↓ |
貸す ↓ |
取り 上げ ↑ |
↓ だます |
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■■のび太 | |||||||||||||||||||
貸す ↓ |
部屋に放置 ↓ |
↓ 奪う |
↓ 盗む |
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ポイ棄て の法則 |
■ゲスト | ■しずか | ■■玉子 | ■■スネ夫 | |||||||||||||||
↓ 拾う |
捨てる ↓ |
つるむ ↓ |
道連れ ↓ |
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■のび助 | ポイ棄ての法則 | ■ジャイ アン |
■スネ夫 のママ |
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↓ | |||||||||||||||||||
ダンプカーの法則 |
入力システム | ■ |
中間出力システム | ■ |
出力システム | ■ |
排除システム | ■ |
秘密道具の流れ | ↓↑ |
キャラの行動 | 貸す |
パターンネタ(※) |
■ストーリーの分類
演出システムの配置を見ることによって、各話のストーリー構成にもパターンを見出すことができる。表4ではそれを分類してみた。ただし、「ストーリータイプ」のDはドラえもん、Nはのび太、Sはスネ夫、Gはジャイアン、Pはのび助を意味し、緑は入力システム、青は中間出力システム、赤は出力システムを意味する。
ストーリータイプ | 内容 | 典型的な作品例 |
DNN型 | 最も基本的なパターン。のび太がドラえもんから借りた秘密道具を使っているうちに調子に乗り始め、最後に道具からしっぺ返しをくらうというもの。 | 「ふみきりセット」(TC15) 「ビデオ式なんでもリモコン」(TC32) |
DNS型 | のび太が持っていた秘密道具を巧妙な手口で奪ったスネ夫が、出力システムになってしまうパターン。たいていはスネ夫だけでなく、スネ夫の家族も巻き添えになる。詳しくは「骨川家の法則」参照。 | 「自然観察プラモシリーズ」(TC45) 「ロボット福の神」(FF1) |
DNG型 | のび太がジャイアンを倒すためにドラえもんに秘密道具を借りるが、逆にジャイアンに道具を奪われ、作戦は失敗する。しかしジャイアンが秘密道具の使い方を誤り、出力システムになってしまう。間接的にジャイアンを倒したことになる。 | 「材質変換機」(TC25) 「クローンリキッドごくう」(TC37) |
DNSG型 | スネ夫とジャイアンがグルになってのび太から秘密道具を奪い、色々たくらむが、結局使い道を誤って、セットで出力システムになってしまうパターン。 | 「きせかえカメラ」(TC3) 「実物ミニチュア大百科」(TC30) |
DDD型 | 入力、中間出力、出力の全てをドラえもん1人が担うパターン。ドタバタ色の強かった初期作品のみに見られる。 | 「スケジュールどけい」(TC3) 「夢中機を探せ」(FF5) |
NNN型 | のび太が勝手にスペアポケットや未来デパートの通信販売によって手に入れた秘密道具を使用し、自爆してゆくパターン。 | 「しかえし伝票」(TC38) 「四次元くずかご」(TC45) |
DNND型 | DNN型の変種で、入力システムであるドラえもんまで巻き添えをくらい、主人公コンビがセットで出力になってしまうパターン。2人で責任の擦り合いの喧嘩を始める場合が多い。詳しくは「本末顛倒の法則」参照。 | 「よかん虫」(TC12) 「平和アンテナ」(TC25) |
DNP型 | のび太のパパ・のび助が、ストーリーとは何の関係もなしにオチに使われてしまうパターン。そのナンセンスさや唐突さはどれも爆笑ものだが、単なる作者の手抜きだろうという説もある。詳しくは「のび助の法則」参照。 | 「さいみんグラス」(TC11) 「大氷山の小さな家」(TC18) |
大体の作品が、これら基本的なタイプのいずれかに属するだろう。これに排除システム(紫)の玉子(T)が絡んでDNTNDになったり(TC5「おしかけ電話」)、DNTSGになったりする(TC22「温泉ロープでいい湯だな」)。FFランド34巻「みせかけモテモテバッジで大さわぎ」では、ドラえもんが排除システムになってDNDPという展開になっている。
ただしこの分類法では、「しずか」の存在が明確に定義できないなどの問題点も残る。