ポイ棄ての法則

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■「窓」という媒体など用いないポイ棄てパターン

 部屋の中から外へ、重要アイテムを退場させる演出を「窓からポイ棄ての法則」と呼んだ。この場合「窓」という枠組はパターンの額縁であり、読者はこの額縁を通じて、ポイ捨て行為を「パターン」と認識し、観賞することができた。投げられたアイテムが「窓」を通過するまでは、そのパターン性が隠れているのだ。

 ところが作者は額縁など用いなくても、ポイ捨てがストーリー転換において大変有能な演出であることを知っている。
 とっときのポイ棄てシーンを捉えようと窓ばかりにピントを合わせるパターン観測者を尻目に、登場人物はやっている。路上でポイ、空き地でポイ、タケコプターで上空からポイ…。
 この漫画のパターン依存度は、我々の想像をはるかに超えていたらしい。

■ポイ棄て履歴

 捨てられたアイテムの見事な拾われ方、スムーズなオチへの転換。パターン観測者として、ただただ感激するばかりの美しさがそこにはある。

発見場所 捨て主 どこから どこへ なにを 拾い主 備考
TC2巻
「正直太郎」
スネ夫 路上 ゴミバケツの方向 正直太郎(盗品)  入力システム→スネ夫→犬→玉夫おじさんの恋人→ハッピーエンド
TC3巻
「シャーロック
ホームズセット」
のび太 路上 庭で植木の手入れをする老人の頭上 シャーロックホームズの本(盗品) -  人の借りてる本を持ち去り、道端で放り投げて老人の頭にぶつけ、その罪を人になすりつけたにもかかわらず、のび太が叱られることはなかった。この漫画では「パターン」という概念だけは全て許容されるようになっている。
 このシーンについて言いたいことはまだあるので、下にまとめてみた。
TC3巻
「ああ、好き、好き、好き!」
のび太 公園 ベンチに座っていた憧れの少女の頭上 キューピッドの矢と弓 -  「捨てちゃえ」という証言付きである。矢と弓をいっぺんに投げるなんて…。
TC4巻
「ラッキーガン」
のび太 路上 ラッキーガン 坊や  「幼児にラッキーガンで撃たれる」という不幸は、道具の効力とは何の関係もありません。「まあ、きょうははじめからついてない日だったんだから」というネコ型ロボットの弁解は当たっている。
TC8巻
「悪運ダイヤ」
ドラえもん 野比家の屋根 路上の何処か 悪運ダイヤ ジャイアン  オチになって初めて拾い主が確認された。落下地点も確かめず、人を不幸に陥れる道具を投棄するこのネコ型ロボットは、未来人の義務も確実に投棄している。
TC8巻
「ロボットがほめれば…」
パン屋 はしごの上 ひょうろんロボットのスイッチの上 -  秘密道具がポイ棄てされるのではなく、落下地点が秘密道具になるという、受動的なポイ棄て(言葉で説明しようとすると、とてもとてもややこしい)。文字通り、筆を捨てた途端に作品が評価された。
TC15巻
「こっそりカメラ」
のび太 路上 スネ夫方向 電送レンズ  投げればどこかに付くだろうという、大雑把な主義は20世紀では通用しない。
TC16巻
「オールシーズンバッジ」
ドラえもん 上空 日本の一部の地域 オールシーズンバッジ4個以上 -  ばらまいてるばらまいてる。このネコ型ロボットは秘密道具管理能力がまるで欠けている。やはり欠陥品だった。
TC16巻
「お金なんか大嫌い!」
ドラえもん ポケット 路上 気前のよくなる薬 ジャイアン
スネ夫
安雄
脇役
 両方とも瓶ごと投げ捨てている。それが錠剤は一粒残らず服用される法則に連鎖して、オチへ。
お金が嫌いになる薬
TC19巻
「カップルテストバッジ」
のび太 ポケット 路上 カップルテストバッジ ジャイアン  読者に見えない所でも、しっかりポイ棄て。この様に、ポイ棄て観測ではストーリーの裏側も見ていなければならない。
TC20巻
「ふくびんコンビ」
スネ夫 路上 ヘリコプターの模型 ジャイアン  いらなくなったら、ゴミ箱に捨てましょうね。スネちゃま。
TC23巻
「おそるべき正義ロープ」
はる夫 路上 路上 空き缶 -  主人公達のほうが比べものにならないほど凶悪なポイ捨てを行っているのに、空き缶のポイ捨てごときで縛られてしまう脇役は哀れ極まりない。
TC23巻
「異説クラブメンバーズバッジ」
のび太 地底世界 地底世界のどこか 地底人(グロテスク) -  造物主が間引き。「あんなのがいては地底人たちが安心して暮らせない」←作ったのはお前だろ。
TC24巻
「虹谷ユメ子さん」
のび太 どこでもドア 源家の風呂場 カメラ しずか  カメラという媒体により、しずかをオチに呼び出した。これはなかなか気づきにくい。
TC24巻
「漫画家ジャイ子」
ドラえもん 路上 源家の庭 マジックおなか しずか  おいおいそれはフリスビーじゃないよ。
TC27巻
「○□恐怖症」
ドラえもん 上空 路上 恐怖箱の中身 -  「恐怖」云々以前に「邪魔」である。
 この後ちゃんと片付けたかどうかも甚だ疑問だ。
TC33巻
「フィーバー!!
ジャイアンF.C」
のび太 上空 路上 ファンクラブ結成バッジ 子供達  「バッジをまく」という表現は、よく考えるとやっぱりおかしい。
TC38巻
「カチンカチンライト」
のび太 上空 源家の湯船 カチンカチンライトの光 -  源家の風呂場は、のび太の道具実験用に存在する(これもパターン)。しずかは、オチに使われる為にわざわざ全裸で登場する。
TC41巻
「未来図書券」
のび太 上空 公園のゴミ箱 原稿「時空パトロール7」のコピー フニャコフニャオ  ”ゴミはゴミ箱へ”という行動は正しい。ただ、空中から捨てるというのは絶対におかしい。見事オチへと繋がった。
TC41巻
「無人島の大怪物」
ドラえもん のび太の目の前 無人島 変身リングとカード のび太  リングとカードをセットで投げている。四次元ポケットにしまえばいいのに、ネコ型ロボットはよほどどうかしている。
TC43巻
「ネコののび太いりませんか」
のび太 ドラえもんの目の前 ドラえもんの口 -  確かに藤子漫画には口からアイテム出したり入れたりするキャラクターが多いけど…。
TC44巻
「人の身になるタチバガン」
ジャイアン 路上 他人の家の庭 のび太のランドセル  のび太に危害を与える動物を召喚するパターン。
TC44巻
「たくはいキャップ」
ドラえもん 上空 泥棒の目の前 たくはいキャップ 泥棒  拾い癖があるのは、このおじさんが泥棒だから。
 もっとも、のび助は泥棒でもないのに拾い癖があるが…。
TC44巻
「虫よせボード」
ジャイアン 不明 空き地 虫よせボード のび太
(2ヶ月後)
 ポイ棄て発生から拾い主が現れるまで2ヶ月以上も経過している。ほのぼのオチなのはいいが、入力システムは探そうともしなかったようだ。
大長編
「宇宙開拓史」
ドラえもん 非連動ネタ コア破壊装置 タイムふろしき -  「非連動式ポケットの法則」と「ポイ棄ての法則」が、ひとつの天体を救った日。この2つの法則がなければ、ドラえもんは(完)になっていたわけで。
FF1巻
「ロボット福の神」
ドラえもん 路上 ゴミバケツ ロボット福の神 スネ夫  速攻「再利用の法則」に連鎖。
 ゴミバケツであろうとも、22世紀の道具を他の時代に放棄するのは航時法上許されない行為だと思う。
CS1巻
「大きくなる虫めがね」
のび太 上空 野原 大きくなる虫めがね スネ夫  速攻「骨川家破壊オチ」に連鎖。
CS2巻
「写真入り込みスコープ」
過去ののび太 現在のドラえもんの頭上 双眼鏡(ドイツ製) 現在のドラえもん・のび太  ドイツ製だろうがスイス製だろうが、のび太のポイ捨て癖にゃ問答無用である。というかドイツ製やスイス製の物は、必ず紛失する法則がある。
現在ののび太 不明 (オチ)
CS2巻
「日づけ変こうチョーク」
のび太 サークルの中 サークルの外 日づけ変こうチョーク -  途轍もなくさりげないが、ここでチョークを落としていなければオチが成立しない。
CS4巻
「持ち主シール」
通行人 路上 神成家の庭 空き缶
(累積12本以上)
神成さん  神成家は練馬に数十カ所あり、野球の流れ弾を吸収するオーラを放っているという説をどこかのページで読んだ。空き缶も吸収するらしい。一番気になるのは、投げ込まれた空き缶全て、捨てずに貯めている所。そこまで根に持つか。
ぼくドラ18巻
「そっくりペットフード」
ドラえもん 上空 路上×5
ジャイアンの口
動物園内×3
そっくりペットフード メリー(犬)
野良犬
ジャイアン
クロ(野良猫)
カラス
ゴキブリ
ゾウ
ワニ
ゴリラ
 言わずもがな街中の動物がドラえもん顔になってしまうというオチだが、そのドラの顔がどれも歪んでおり、1990年当時の作者の病状の悪化がうかがい知れて悲しい。

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。
 ※単なる空間移動物体の着陸や、捨て主不明の流れ弾(=野球のボール)、頭上に落下してくる材木類は含まない。なにせ「窓」という仕切りの無いパターンだから、非パターンとの境界線を引くには、観測者の鍛えぬかれた視点だけが頼りだ。

■さんざん推理してもやっぱりこれか

 「シャーロック・ホームズセット」の結末には、驚かされた人も多かろう。推理の行く末も結局パターンの一角だったというオチ。「チンプイ」のほうにも推理話が存在するが、やはりそれも「窓からポイ棄ての法則」に行き当たるのであった。藤本氏が探偵ものを手がけると、必ずこうなるようだ。大長編で推理探偵ものをやったら面白かったかもしれない。


〜「ポイ棄ての法則」観測にご協力いただいた方々〜

影月氏・KKK氏・春井風伝氏・YM氏・黄 牛捨氏・ティ濾器氏・ウミ

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