恐怖の電話相談室

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■溺れる者電話線をも掴む

 ストーリーの中に、レギュラー5人以外の者が介入してはいけない。これはパターンマンガである以前に、少年漫画及び小説における共通の約束事である。大人は子供達の世界に絶対に理解を示してはならない。安雄・はる夫・出木杉までも脇役というだけで、関心を持たせてはならない。レギュラーは自分達だけで物事を解決しなければならないという任務を背負い、日夜このパターンマンガの檻の中で生き続けている。

 ……と思いきや、実はレギュラーはかなり外部に頼ろうとしている。警察、新聞社、テレビ局、国連事務総長、あちらこちらに救いの手を求めているではないか。もちろん外部の介入は許されないので、子供達のSOSは無情にもはねつけられる。それでも一応社交辞令として、電話する。これもパターンネタの一つだ。

■恐怖の電話回線接続履歴

 E.T.ウチニデンワスル。
 ネコ型ロボットは国連事務総長に電話する。

発見場所 相談者 相談内容 相談相手 反応 備考
TC3巻
「日付変更カレンダー」
玉子 テレビがあんないい加減な事を言っていいのか。 テレビ局  玉子は勿論、レギュラー5人の側から見て外部の存在だが、結局レギュラー側の世界観に踊らされている。
TC4巻
「世界沈没」
ドラえもん 今夜12時に大雨が発生、地球上の全ての陸地が水の底に沈む。 気象台 本気にしない  他のレギュラー3人も入って来ず、主人公コンビだけが孤立する話。のび太も傍観してないで手伝えよ、この行事(笑)。
テレビ局 悪戯電話と思われる
新聞社 笑われたらしい
国連事務総長 通じるわけがない
TC10巻
「ニセ宇宙人」
スネ夫
ジャイアン
宇宙人が会いたがっているので、来てほしい。 三木首相 切ってしまった  首相の名前は版によって異なる。時事に合わせてまでこのパターンを温存しようとは、さすが藤本氏。
三木首相の家を教えてほしい。早く行かないと宇宙戦争になるから。 交番 「救急車をまわして下さい。ここに頭のおかしな子が2人・・・」  最近では「頭のおかしな」という表現はカットされている。自主規制の前にはパターンも無力だった。
「円盤が降りてきてですね、首相に会わせろと・・・」 先生 体罰  一番相談してはいけない相手であった。
TC10巻
「弟をつくろう」
玉子 「うちの家族は3人ですよね」 のび助 「なに言ってんだ、うちは4人じゃないか」  よく考えると玉子は、主人公側(=ドラ)の世界観と部外者(=のび助)の世界観に挟まれている特殊な人物でもある。
TC16巻
「サハラ砂漠で
勉強はできない」
のび太 「大急ぎで救急車を。いまにも死にそうなんです。場所ですか。サハラ砂漠のですね・・・」 119番 「ガチャ」  日本の救急車がどうやってサハラ砂漠まで行くのか。
TC41巻
「深夜の町は海の底」
通行人 「サメが!!でっかいサメがたばこ屋の角を・・・」 警官 「飲み過ぎですよ。気を付けてお帰りなさい」  主人公の世界観が庶民の生活まで脅かしている。
浪人生 「ジョーズがボーズにビョーブの絵を描いた」 「勉強のしすぎだ。ぐっすり寝たほうがいいよ」
TC43巻
「宇宙戦艦のび太を襲う」
のび太
ドラえもん
宇宙人が地球を征服しに来る。 総理大臣
防衛庁長官
「つまらないいたずらはやめろ」  43巻はおいしいネタがありすぎだ。
 どうしてタイムパトロールに電話しないのか?
大長編
「海底鬼岩城」
玉子 「海へ行ってるのび太達は大丈夫かしら」 のび助 「海水浴と海底火山と何の関係がありますか!!」  この大長編での玉子の行動は、伏線的に重要である。しかし子供に負けず「テレビの見過ぎ」。
大長編
「鉄人兵団」
のび太
ドラえもん
ロボットの団体。地球征服。なんらかの対策を。 玉子 「テレビやマンガを見すぎるのよね。しまいにはお話と現実がごっちゃになっちゃって・・・」  どういうわけか22世紀のネコ型ロボットは、国連事務総長への依存心が強い。
 「子ども電話相談室」は、藤本氏もご出演なさっていた教育テレビの番組だ。
110番 悪戯電話と思われる
自衛隊
総理大臣
国連事務総長
子ども電話相談室
だ〜れも信じてくれない
大長編
「雲の王国」
(スネ夫)
(ジャイアン)
天上人の陰謀を、地上のみんなに知らせる。 (警察)
(自衛隊)
(国連軍)
(未遂)  何で国連軍の電話番号なんか知ってるんだ?

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。

■ウメ星デンカとの互換性

 自分らの世界観を公共の機関や権威に持ち込み、結局はねつけられる類のネタは、「ドラえもん」の一つ前の作品にあたる「ウメ星デンカ」時代に形成されたパターンと思われる。以下は、ウメ星デンカ(1巻のみ)に見られる電話相談ネタのリストである。

発見場所 相談者 相談内容 相談相手 反応 備考
TC1巻
「デンカが来た夜」
太郎 「宇宙人が来てさ、僕の部屋に住みついちゃったの」 太郎のパパ 「テレビの話なら後にしてね」  この手前でも、暴力表現として玉座を「窓からポイ」するなど、あらゆる行動で宇宙人を撤退させようと試みるが、所詮はパターンなので無駄に終わる(笑)。
太郎のパパ 「すぐ来て下さい。宇宙人が家を占領したのです」 110番 大笑いして、切ってしまった  この作品はレギュラー5人の影は薄く、主人公は家族単位で行動する事が多いのが、「ドラえもん」との相違点だ。父親も早速”電話する側”につく。
TC1巻
「ウメ星記念日」
ベニショーガ ウメ星の建国記念日なのに誰も挨拶に来ない。政府のえらがたを呼びつけてやる。 総理大臣 家族に止められる  初出では多分、「カーター君」、「ブレジネフ君」。
クリントン君
エリツィン君

 建国ギャグマンガの名残が、「ドラえもん」にそのまま受け継がれている。
 実を言うと、元々「ドラえもん」と「ウメ星デンカ」はパターン観測学的にはかなり類似点がある。「窓からポイ棄て」「逆・窓からポイ棄て」「犬に噛まれる」「木材が頭上に落下」「車にはねられドブに転落」「そうじ大臣」等々も、全てデンカの時代から存在していたものである。勿論それ以前の作品にもそれらしきネタは転がっているが、本格的に”パターン”として形成され、画一化したのはデンカからだろう。「キテレツ大百科」にも共通パターンは多いが、あれはドラえもんが始まった後の同ジャンルの作品なので当然だ。
 ドラえもんパターンのルーツを知りたい人は「ウメ星デンカ」を読んでみるといいかも知れない。

 ともかく、電話代の無駄遣いは止めよう。


〜「恐怖の電話相談室」観測にご協力いただいた方々〜

影月氏・春井風伝氏・KKK

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