決心の法則

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■年に2.3回つまることろ半年に一度の割合で、最高記録48分23秒

 のび太がある「決心」を起こすシーン。数は「ないものねだり」ほど多くはなく、認知度も「非連動式ポケット」ほど高くはないが、これも作者が数十年間ずっと意識的に演出し続けてきた、「ドラえもん」という作品の中核をなすパターンである。

パターンマンガの冴えない主人公も半年に一度くらいの割合で、自分のパターンから抜け出そうと決心する。

しかし結局はその言動もパターンの一角にすぎず、決心はすぐにしぼんでしまう。(その中でも最高記録だったのが48分23秒らしい)

だが、その裏に作者からの真のメッセージが隠されていたりする。

 「ぼくDORA2」(小学館『ぼくドラえもん』13号付録)に収録されている「ぼく、藤子・F・不二雄」の中で、F先生は以下のように語っている。

 「あののび太君ね、とっても立派な所が一つあるんです。それは当人も気付いていないんです。彼はそこに自信を持っていいんだけども、気付いていない。どういう所かと言いますとね、彼は本当にダメ人間なんだけれども、時々反省するんです。『これじゃいけない』と思うのね。で、少しでも、今よりは立派な人間になりたいなんて考えるんだけれども、その決心が長続きしないんですよ。ほんの何分でまた元へ戻っちゃったり、続いても3日ぐらいしか続かない。でもね、それは誰でも―例えば僕らなんかでもね、素敵な小説を読んだりしますとね、こういう素晴らしい生き方があるのか、自分も…なんて思うんだけどやっぱり続かないの。それでだんだんだんだん普通の大人になってっちゃうんだけれども、のび太はそこが違うのね。1年に少なくとも3、4回は反省するんです。で、くじけてもくじけても、自分は今よりはいい人間になりたいと思うの。そういうところが、僕はのび太はとっても立派な子だと思う。」

 このパターンは作者ご自身の経験に裏付けられたものであり、数多あるパターンの中で最もメッセージ性の強いものとなっている。よって、このパターンが挿入されている作品は名作揃いである。

■決心履歴

 (正式名称を「突発性決心症」にするのはどうだろうかと、影月氏は提案する。)

発見場所 決心 症状 周囲の反応 備考
TC3巻
「ぼくを、ぼくの先生に」
見ててよ2学期の成績を/勉強するから邪魔しないでくれ (と言って部屋に閉じこもる) ●決心を守れば大したもんだが・・・/5分たった。いつもなら欠伸の出る頃だ/10分だ。いつもなら机を離れて寝そべる頃だ  どうやらドラえもんはのび太の所に来る前に、のび太の生活パターンをインプットしてきたらしい。
TC14巻
「悪の道を進め!」
ぼくは決心した/もっと立派な人になる/世のため人のために役立つことをする/やるぞぼくは! 目が輝いている ●これを読んだのか/簡単にその気になるんだな  「えらい人の話」って、毎年クリスマスや誕生日になる度のび助にプレゼントされてるやつだろ。同じ本を何個も与えられてやっと読む気になったようだ。パターン教育法か?。
TC16巻
「りっぱなパパになるぞ!」
ぼくはそんな大人にはならないぞ/突然成績のことなんか持ち出して子供を苛めたりしないぞ!/お酒なんか飲む金があったら子供にテレビを買ってやるぞ/勉強なんかさせずに小遣いはたっぷりやって/やさしく理解力のある父親に・・・ (ジーンと感動している) ●立派すぎる決心は、きっと三日坊主になるから  決心ネタがストーリーと相互乗り入れをしている。やはり「決心ネタ」は、作者の伝言媒介として使われることが最も多い。他のパターンネタとは格が違うのかもしれない。
TC19巻
「パンドラのお化け」
もう2度としかられないよう、まじめに勉強しよう と、かたく心に誓ったのであった ●その固い決心が、3時間も続けばいいんだが・・・  「3分30秒しか続かなかった」らしい。ドラえもんには何か、体内時計みたいなものが内蔵されてるんですか?。バカに正確な所を見ると、それはまだ壊れてはなさそうですね。
 頭が働かない→気分を変える→読漫→熟睡という行動が既にパターン。生活パターンは受験の敵ですよ。
TC43巻
「男は決心!」
今回こそかた〜く決心した/いつまでもだらけてなんていられない/生まれかわる/一度決心したことはなにがなんでもつらぬきとおす/宿題を終えるまで絶対に机をはなれない/昼寝もしない キリリと上がった眉/輝く瞳/ひきしまった口元 ●年に2.3回発作的に決心するんだよね/それがどれだけ続くかだけど/今までの最高が48分23秒  題名が題名だけに、この決心の盛り上がりかたが凄い。決心ネタの総集編みたいな感じだ。近所に被害を与えなかっただけ幸いだった。
FF4巻
「シャラガム」
帰ったら3時間みっちり勉強する/「こ・ん・ど・こ・そ・や・り・ぬ・く・ぞ」固く心に誓ったのだ/僕ももうすぐ中学生/この辺で真剣に取り組まねば/永久に取り残されてしまう かたい決意を示す瞳/きりりとむすんだ口/ぐっとそらした胸/自信に満ちた足取り ●またか
◆またね
●半年にいっぺんほどのわりで発作的に決心するんだけど・・・/今度は1週間続くかしら
◆あの様子じゃ2.3日ね/1日でも長続きするよう祈りましょ
 FFランド版での不朽の名作「シャラガム」なしに決心は語れない。この話には、F先生が小学校卒業生に送る熱いメッセージが込められている。それを伝えるためにもパターンネタは必要なのである。
未収録作品
「45年後…」
今日から生まれ変わった気でちゃんとした生活をおくる/将来みんなに尊敬される立派な社会人になる (ナレーション)年に二度か三度の、のび太大反省の日がやってきた! ▲またいつものあれだ/できもしないのに無理しちゃって
■今度の決心は何日続くかな
 作者のナレーション付きの決心ネタ。決心ネタあるところに名作あり。なぜこれが未収録なのかとファンに叫ばれるほどの超名作である。
ぼくドラ4巻
「きらいなテストにガ〜ンバ」
今度こそ0点とるわけにいかない/徹夜で勉強しなくちゃ/いつも今度こそやろう!と決心して…、結局なにもしないで朝をむかえるんだ/だが、こんどこそそうはいかない!せめて20点は取らなきゃ人間やめるしかない!!/やるぞ!/おわるまで机をはなれないぞ!! (机に向かって教科書をめくる) ●いつもおんなじこといってる/わかってるんだねぇ  のび太がこんなに「今度こそ!」を連発してても、秘密道具を3つも駆使しても、とうとう決心は果たせずに終わるという展開が意外ですね。(←ぼくドラの作品解説と同じこと書くなよ)

 他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。

■「決心」がストーリーを生み出す

 上のリストを見て、まず気付くことがあるだろう。

決心ネタは、ストーリーの冒頭に使われる。

 他のパターンネタと言えば、ストーリーの流れに沿ってストーリーの軌道修正目的で発生している類のものが多いが、「決心の法則」はストーリーの冒頭に置かれて、ストーリーを創り出すパターンである。「りっぱなパパになるぞ!」「シャラガム」「45年後…」など有数の名作と呼べるべき作品が、この決心によって生み出されている。それは上でも述べた通り、「決心」は作者のメッセージ源であるからだ。

■決心シリーズ

 決心で始まる話のことを、総じて「決心シリーズ」と呼ぼう。「ドラえもん」の短編は基本的に秘密道具を中心に話が展開するが、決心シリーズにおいては「のび太」が中心に置かれており、秘密道具は副次的な存在でしかない。「シャラガム」に至っては、秘密道具が一つも登場しなかった(ドラえもんから借りた「シャラガム」は、ただのガムだった)。決心シリーズは、「『ドラえもん』は、のび太が秘密道具に頼り過ぎていて面白くない」あるいは「教育上良くない」という、世間の一般的な評価に対するアンチ・テーゼになるだろう。


〜「決心の法則」観測にご協力いただいた方々〜

影月氏・春井風伝

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