乗用土管の法則
■悪いな、この土管は3人乗りなんだ
昭和40年代は日本の便所が汲み取り式から水洗に変わった時代である。あちこちで下水道工事が行われており、空き地という空き地に工事用の土管がストックとして置かれていたという。そんな時代の真っ只中に連載が始まった「ドラえもん」の中の空き地にも、当然のごとく土管が描かれた。それが25年の連載期間の中で残り続け、やがて「ドラえもん」という作品のシンボルのようになった。
このサイトも「ドラえもん」を扱ったサイトである以上、いつかは「空き地の土管」について言及しなければならないと思っていた。しかしここは「漫画における景観表象」やらを語る場ではないので、ただ作中に多く登場するというだけではネタにはならない。何かしらキャラの行動と結びつくものがなければなぁ…と思っていた矢先、カラー作品集3巻の表紙を見て一気に思いついた。
空き地の土管は、乗り物に見立てられることが多い |
特に低学年向け作品を集めた「カラー作品集」や「ぴっかぴかコミックス」で数多く目にするパターンである。ロボットアニメではロボットが乗り物に変身するが、「ドラえもん」では土管が乗り物に変身する。どちらも子供の好きな「乗り物」という要素を用いて子供の創造力を刺激するものである。ぴっかぴかコミックス巻末の『齋藤孝先生の読み解きクイズ』でも、ぜひ取り扱ってほしいネタだ。
■乗用土管履歴
このネタの見所は何と言っても、「どうして土管を使うのか」「どのように土管を使うのか」という創意工夫が描かれている点だろう。「ドラえもん」のシンボルでもある空き地の土管を、こんなに巧みに使いこなすとは作者もニクい。
発見場所 | 見立て | 操作系統 | 乗員(太字は運転手) | 創意工夫ポイント | 備考 |
TC30巻 「空き地のジョーズ」 |
つり船 | のび太,ドラえもん | 土管そのものを改造するのではなく、空き地を海に見立てることで、土管がつり船になる。 | 何かと海に見立てられることの多い空き地。土管の陰にジョーズが…って、マ○オ3の水上面を作った人顔負けの発想。 | |
TC36巻 「ツモリナール」 |
ヨット | ツモリナールによるイマジネーション | ドラえもん,しずか,のび太 | 土管をヨットに、空き地を海に見立てる。 | 高学年向けなので、他の同ネタと比べるとだいぶヒネリがきいている。 |
TC38巻 「かるがるつりざお」 |
ジャンボジェット | かるがるつりざお | のび太,ドラえもん,しずか | 人数は3人なのに、つりざおは1本。さてどうする? | この空き地には土管以外に空き箱も置かれているらしい。この話以外では見かけないが。 |
CS3巻 「なんでもそうじゅう機」 |
自動車 | なんでもそうじゅう機 (自動車タイプ) |
のび太,しずか,ドラえもん | ソファー以外で3人以上が乗れるものは? | 低学年向けだから、無免許運転でもシートベルトしてなくても、刑事・行政・民事上の責任に問われることはないから安心だね! |
飛行機 | なんでもそうじゅう機 (飛行機タイプ) |
ドラえもん,のび太,しずか | 自動車タイプで運転していたら、他のドライバーに「こらっ、あぶないぞ」と怒られた。さてどうする? | 「これならあぶなくないね」―いや、さらに危なくなってるんだけど…という突っ込みは低学年向けだからナシだね! 尚、この話で【ジャイアンのいとこ】がパターンアイテムであることが判明。 |
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CS3巻 「ラジコンのもと」 |
ラジコン自動車 | ラジコンのもと | のび太,ドラえもん,しずか | しずちゃんが土管に乗って乗り物ごっこをしていた。では実際に動かしてみよう。 | しずちゃん、1人で土管に跨って何をやってたの?―という突っ込みは低学年向けだからナシだね!(高学年でも駄目) |
CS4巻 「スベールガス」 |
ソリ | スベールガス | しずか | 裏山の斜面で、色々な物を滑らせてみる。 | しずちゃんってよっぽど土管が好きなんだね。どういうつもりですかF先生。 |
PK2巻 「クルリン自動車」 |
自動車 | クルリン×4 | スネ夫 | クルリンを4つ手に入れたが、箱(車体)がない。さてどうする? | 最大定員数、ないものねだり、乗用土管…低学年向け作品はどれもパターンの密度が濃い。 |
飛行機 | クルリン プロペラ 板×3 |
のび太,ドラえもん,しずか,ジャイアン | クルリンが1つしかないので、自動車が作れない。さてどうする? | ないものねだりのほうでも述べたが、話の展開はぼくドラ8巻「ラジコンねん土」と同じ。「ラジコンねん土」の飛行機も、土管を使えばよかったのに。 |
他にも発見された方は、掲示板で報告して下さい。
■考察
ドラえもん+のび太+しずか―このトリオを、乗用土管3人衆と名付けよう。
「ドラえもん」は必要最少限のネタと線で構成された寸劇である。その構成要素のひとつである土管は、色々な乗り物になったり、演壇になったり、昼寝場所や隠れ場所になったりと実に多目的に使える、シンプルかつ便利な小道具である。
カラーコミックス3巻に「なんでもそうじゅう機」と「ラジコンのもと」が同時収録されているのは、おそらく編集者の意図であろう。表紙絵や巻末コラムの「土管のある空き地よ、永遠に。」も然り。TC36巻が「パパのゴルフ番組」の巻、TC43巻が「骨川家破壊」の巻だとすれば、CS3巻は「乗用土管」の巻である。いずれも「あれ?このネタさっきも見たような…」というデジャヴのような感覚に陥ることのできる巻だ。
■おまけ
現実世界では滅多に見かけることのない、土管のある空き地。